金沢地方裁判所 平成7年(わ)171号 判決 1996年2月19日
本籍及び住居
石川県小松市浜田町ハ九番地一
不動産業
永野弘雄
昭和一五年三月二二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石井隆、弁護人若杉幸平各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、石川県小松市浜田町ハ九番地一に事務所を設け、「永野不動産商事」の名称で不動産売買及び仲介業等を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、
第一 不動産売買益を他人名義で預金するなどの方法により所得を秘匿した上、平成二年分の総所得金額が、別紙一記載のとおり一億六八四五万八一八四円であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、同市園町ホ一二〇番地の一所在の所轄小松税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得額が八七〇万円で、これに対する所得税額が一四〇万四五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙三記載のとおり、同年分の正規の所得税額九二七八万九四〇〇円と右申告税額との差額九一三八万四九〇〇円を免れ、
第二 実際の売却価額を圧縮した不動産売買契約書を作成するなどの方法により所得を秘匿した上、平成三年分の総所得金額が、別紙二記載のとおり八二七四万五八円であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、前記小松税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が六二〇万円で、これに対する所得税額が七四万六八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙四記載のとおり、同年分の正規の所得税額四四一九万円と右申告税額との差額四三四四万三二〇〇円を免れた。
(証拠の標目)
括弧内の記号数字は証拠等関係カードの検察官請求記号番号を示し、検察官に対する供述調書は「検察官調書」と、司法警察員に対する供述調書は「警察官調書」と記載する。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官調書(一二通。乙2ないし4、6ないし14)
一 戸田志郎(甲40)、撫子順一(甲42)、篠岡芳治(甲44)、辻井道正(甲47)、赤見坂昭男(甲48)、鈴木博之(甲49)、堀井英徳(二通。甲55、56)、永野弘樹(甲57)、永田藤吉(甲60)、広根義行(甲82)及び永野眞樹子(甲87)の各検察官調書
一 福田喜尚(甲41)、広根義行(二通。甲80、81)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(三六通。甲3ないし38)
一 検察官作成の捜査報告書(甲1)
一 検察事務官作成の電話聴取書(甲90)
判示第一の事実について
一 犀川等一(甲51)、柏原由房(甲52)及び勝田泰穂(甲54)の各検察官調書
一 撫子順一(甲43)、西田廣昭(甲50)、石山茂義(甲64)、野村茂三(甲65)、高島一郎(甲66)、安井裕(甲67)、辻井道正(甲69)、今西浩(甲72)、不島實(甲73)、久保田博(甲75)、辻井武夫(甲77)、及び久保田伸子(甲83)の大蔵事務官対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の証明書(甲88)
判示第二の事実について
一 被告人の検察官調書(乙5)
一 東本清の大蔵事務官に対する質問てん末書(二通。甲62、63)
一 大蔵事務官作成の証明書(甲89)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ各罪につき情状により同法二三八条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
(量刑の事情)
本件は、昭和四五年ころ以降、小松市内において個人で不動産業を営んでいた被告人が、平成二年及び同三年において、営業所得(事業所得)のほか、不動産所得、分離課税となる土地の譲渡に係る事業所得があったのに、各年度の所得税に関し、不動産売買益を妻の妹名義で預金したり、実際の売却価額を圧縮した不動産売買契約書を作成するなどの所得秘匿の方法を用いた上、不動産所得、分離課税分の所得を申告せず、適宜の過少な営業所得の金額のみを所得金額として計上して虚偽過少の確定申告をし、二年間で一億三四〇〇万円余の所得税をほ脱していたという事案である。
そのほ脱税額は高額であり、ほ脱税率をみても、平均で九九パーセント以上の高率であって、結果だけをみても悪質な脱税である。
そして、被告人は、取引に関する書類の保管、帳簿への記載をほとんどしていなかったこと、それまでも大まかな適宜の金額を計上して確定申告していたが、問題とされなかったこと、平成二年及び同三年に多額の不動産売買益があったが、右売買に関して裏金の授受があり、また、できるだけ税金を納めたくないという気持ちがあったことなどを本件の理由として述べているが、脱税の動機として斟酌すべきものがあるとは到底いえない。また、申告前の行為をみても、ずさんな経理というに止まらず、所得秘匿目的としか考えられないものである。そうすると、被告人の刑事責任は重いものがあると言わざるを得ない。
しかし、被告人は、本件発覚後、本件起訴に係る年度分の所得税について、修正申告の上本税、重加算税、延滞税等必要な納税をしていること、本件脱税の方法は、事前の所得秘匿も行われているが、主としては、確定申告に当たり適宜の過少な所得金額を計上して虚偽過少の申告をしたという比較的単純なものであること、被告人は国税局の査察調査を受けた後、捜査、公判を通じて事実を認め、永野不動産商事を廃業するとともに、宅地建物取引業者の免許証を返納するなど、反省の態度を示していること、前科がないことなどの斟酌すべき事情もある。そこで、これらを総合勘案して被告人に対し、主文のとおりの懲役刑と罰金刑とを科することとするが、懲役刑についてはその執行を猶予する。
よって、主文のとおり、判決する。
(裁判長裁判官 石山容示 裁判官 古川龍一 裁判官 福井美枝)
(別紙一)
修正損益計算書
<省略>
修正損益計算書
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修正損益計算書
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修正損益計算書
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修正損益計算書
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(別紙二)
修正損益計算書
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修正損益計算書
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修正損益計算書
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修正損益計算書
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修正損益計算書
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